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ホスファチジルセリン

ホスファチジルセリンは、細胞の膜を構成するリン脂質の一つです。脳機能の改善、認知症の予防、特にアルツハイマー病の症状を改善する効果があることが報告されています。ホスファチジルセリンは、脳を活性化させる栄養素であるブレインフーズとして注目されています。

ホスファチジルセリンについて

ホスファチジルセリンはリン脂質の一種で、私たちの体を構成する細胞の細胞膜に存在します。とくに脳や神経組織に豊富に含まれていて、脳のリン脂質のうち10〜20%がホスファチジルセリンです。そして、ホスファチジルセリンの構成成分であるL-セリンやセリン由来のリン脂質は、神経細胞の生存や形成にとても重要な物質です。
ホスファチジルセリンは、大豆製品や豚肉、鶏肉、卵といった食材に含まれています。サプリメントで流通しているホスファチジルセリンの多くは植物由来で、主に大豆に含まれるレシチンが原料となっています。

ホスファチジルセリンの機能

脳機能の改善

 ホスファチジルセリンは脳の神経細胞に多く含まれ、細胞膜を柔らかく健康な状態に保つ役割をもっています。細胞膜が流動性に富んでいることで、栄養と酸素の供給と老廃物の排出が適切に行われ、神経細胞が健康な状態を維持できるのです。
また、ホスファチジルセリンは、脳の神経細胞の軸索に巻きつく髄鞘(ミエリン鞘)の主成分です。髄鞘は、一つの神経細胞が受け取った電気信号(情報)を、次の神経細胞へ効率的に伝える機能をもっています。十分な量のホスファチジルセリンが髄鞘に存在することは、多くの情報を素早く伝達するためには欠かせません。

ホスファチジルセリンと脳機能の関連性を調べた研究例は多くあり、いくつもの臨床試験結果からホスファチジルセリンの摂取により脳機能が改善されたという報告があります。
認知機能が軽度に低下した高齢者に対し、ホスファチジルセリンを1日あたり300mg(100mgを1日3回)の量で60日間連続で投与した結果、言語学習、言語記憶、流暢性、視覚学習、注意力、コミュニケーション能力等の脳機能に関連する能力が有意に改善することが分かりました。
ホスファチジルセリンは、サプリメントのように、経口摂取(口から取り入れること)する場合でも、有効であることが確認されています。
軽度の記憶喪失を示す60歳以上の男女を、プラセボ群(ホスファチジルセリンを含まない食品を摂取)と、ホスファチジルセリン摂取群(1日あたり300mg)に分けて、それぞれ90日間経口摂取してもらいました。その結果、短期記憶、語彙力および単語を思い出す能力、注意力等において、有意な改善がみられました。
また、中程度から重度の認知機能障害をもっている高齢者が、ホスファチジルセリンを1日あたり300mgの量で6ヶ月間、経口摂取した場合でも、脳機能の改善がみられました。

アルツハイマー病の症状改善

アルツハイマー病は、脳の活動によって生じる老廃物のアミロイドβ(ベータ)の蓄積が原因であるといわれています。加齢によって脳の神経細胞膜が硬化することで、アミロイドβがうまく排出されず、蓄積が加速します。
ホスファチジルセリンは、神経細胞において細胞内外の物質移動を適切な状態に保つので、アミロイドβが蓄積されにくくなります。

アルツハイマー病と診断された高齢の患者さんにおいても、ホスファチジルセリンの摂取によって、症状が改善することが報告されています。
アルツハイマー病であり重度の認知障害をもつ高齢の患者さんを、プラセボ群(ホスファチジルセリンを含まない食品を摂取)と、ホスファチジルセリン摂取群(1日あたり200mg)に分け、それぞれ3ヶ月間経口摂取してもらいました。その結果、記憶、情報処理、およびADL(日常生活の動作)遂行能力において、プラセボ群よりもホスファチジルセリン摂取群の方が有意に大きく改善されたこと報告されています。

ホスファチジルセリンを効率的に摂取するには

大豆製品や豚肉、鶏肉、卵といった食材を食事に取り入れることで、ホスファチジルセリンを摂取することができます。しかし、日々こうした習慣を継続するのが困難な方には、食材と比べてホスファチジルセリンを効率的に摂取できるサプリメントも選択肢の一つです。

参考文献

宮崎 洋祐
ホスファチジルセリン(PS)の概要とその機能
生物工学, 95 (2017)
https://www.sbj.or.jp/wp-content/uploads/file/sbj/9509/9509_tokushu_6.pdf

酒井 正士, 片岡 豪人, 工藤 聰
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オ レオサイエンス, 2 (2002)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/oleoscience/2/2/2_85/_pdf/-char/ja

堀江 秀典, 生田 信一郎
年とともに硬くなる神経細胞膜
生物物理, 29 (1989)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/biophys1961/29/4/29_4_191/_pdf

Glade MJ, Smith K
Phosphatidylserine and the human brain
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久保 健一郎 (監修)
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