認知症の予防の一つとして注目されているのが「食事」です。
一部の食材は脳の機能のサポートや改善、認知症予防につながるとされており、日々の食事に取り入れられるものもあります。
今回は認知症の予防のために、認知機能低下を防ぐとされている食材を紹介します。
認知症の予防の重要性と社会背景
高齢化が進み、団塊の世代が後期高齢者になることで起こる2025年問題の対処は国の課題となっています。
また、それに伴って認知症の高齢者の人数も増加し、介護・医療負担の増加が懸念されています。
厚生労働省の資料より、認知症は75歳以上で急激に発症率が高まるため、60〜80代までの人たちの認知症予防に積極的に取り組む必要があるとしています。
しかし若年性認知症や軽度認知障害の方も増えている今、認知症予防は高齢者だけの問題ではなく、年齢に関係なく取り組むべき課題と言えるでしょう。
認知症の予防に食事が注目されている理由
認知症の予防として、食事が注目されています。
その理由は、特定の食材に含まれる成分が、脳の機能をサポートしたり、改善したり、認知症の進行を遅らせたりするという研究結果が報告されているからです。
主に次のような食材に認知症の予防を期待できる成分が含まれています。
- 大豆
- イチョウ葉
- ヤマブシタケ
- 玄米
- 卵
- 赤ブドウ・赤ワイン
- 青魚
- 亜麻仁油
認知症予防が期待できる食材
大豆
大豆に含まれている認知症に有用とされる主な成分は、抗酸化作用があるサポニンと、リン脂質であるホスファチジルセリンの2つです。
サポニンの抗酸化作用によって脂質の酸化を抑えてくれるため、LDLコレステロール値を下げてくれます。そのため動脈硬化や脳卒中や狭心症などの、虚血性心疾患に罹患するリスクを下げてくれるでしょう。
ホスファチジルセリンは、臨床実験の結果から脳機能の改善や認知症の予防、改善に効果があると報告されました。
臨床研究は加齢に伴う認知機能の低下を調べるもので、人名を記憶させ答えさせるテストと文章を覚えるテストを行っています。
ホスファチジルセリンを摂取していない場合、通常40代と比べて60代では超短期記憶力は30ポイント低下し、短期記憶力は40ポイント低下という結果で、文章を覚えるテストでは、40代と比べて60代では短期記憶力が20ポイント低下という結果になっています。
対してホスファチジルセリンを用いて同様のテストを行った結果、ホスファチジルセリンを摂取したグループでは、いずれの評価項目でもテスト結果が有意に改善されたという結果がみられました。
この臨床研究結果からも、ホスファチジルセリンは加齢により低下した認知機能の改善が期待できるでしょう。
イチョウ葉
イチョウ葉は食事に取り入れることができませんが、サプリでなら摂取できます。
イチョウ葉エキスは、臨床実験から加齢とともに低下する記憶機能を改善する効果があるとされています。
臨床実験は、イチョウ葉エキスを投与した人と投与していない人を比較するものです。中年成人において記憶の遅延再生テストを行うと、イチョウ葉エキスを摂取したグループでは、遅延再生の回数の改善が見られました。
そのため、加齢に伴って低下していく、集中力が必要な記憶機能を改善する効果が期待できるということが判っています。
ヤマブシタケ
ヤマブシタケに含まれる認知症に有用とされる成分はヘリセノン、アミロバン、DLPEという3つの成分です。
まずヘリセノン、アミロバン、DLPEの3つの成分はNGF(神経成長因子)の合成を誘導し、神経細胞をアミロイドβや酸化ストレスなどから保護してくれる働きや、活性化してくれる働きがあります。
またヤマブシタケの成分を用いた臨床実験において、成分を投与することで機能的自立度評価(FIM)が高かったという結果がみられました。そのため認知症の進行を遅らせたり、低下した認知機能を改善したりする可能性があるとされ、加齢による認知症の治療や予防への効果があると考えられています。
さらにこのヤマブシタケに含まれるアミロバンという成分は、アルツハイマー型認知症の場合に特に効果が期待できると考えられています。
そもそも、アルツハイマー型認知症は、小胞体のストレス(小胞体内で異常なタンパク質が蓄積)により引き起こされる、細胞死と関連があると考えられています。
そして2007年に特許成立した成分であるアミロバンは、小胞体ストレスによる細胞死を抑制して、神経細胞生存率を高める働きがあるという研究結果がある成分です。
さらにアミロバンには、アルツハイマー型認知症の原因と考えられているアミロイドβの毒性を抑えるという研究結果も報告されました。
アミロイドβの毒性を抑えたり、細胞死を抑えることで細胞生存率を高めたりするアミロバンや、その他のヤマブシタケの成分の効能は、摂取することで加齢によって衰えていく脳の機能維持や神経細胞の保護、活性化に役立ってくれるでしょう。
玄米
イネ科植物の細胞壁に含まれているフェルラ酸は、精白米と比較すると玄米には6倍含まれています。精白米の場合、精米を行う過程で細胞壁が取り除かれるため、細胞壁に多く含まれるフェルラ酸は少なくなりますが、玄米では細胞壁が取り除かれていないため、多くのフェルラ酸が含まれています。
このフェルラ酸は抗酸化作用があり、活性酸素を減らしたり、慢性炎症を鎮静させたりといった働きをする成分です。
認知症の一歩前の症状を指す軽度認知障害(MCI)の方を対象に、フェルラ酸を投与した前後の認知機能の変化を比較した臨床実験が行われています。その結果から、軽度認知障害の被験者のうち17%は認知症へと進行したものの、61%は認知機能を評価するスコアであるADAS-Jcogという数値が改善したことがわかります。
またアルツハイマー型認知症発症のリスクとなる、アポリポタンパク質Eを司るアポリポタンパク質E4(APOE4)を保有していない方の場合は、ADAS-Jcogのスコアが大きく改善したという結果がみられました。
これらの研究結果からもフェルラ酸の摂取は、認知機能の改善の効果が期待できると言えます。
卵
卵黄レシチンは卵の卵黄に含まれるリン脂質の一つで、ホスファチジルコリンとも呼ばれています。リン脂質は神経細胞膜を構成するもので、認知症と大きく関わりがあると考えられてきました。
認知症への有効性を確かめる調査では、認知症を発症していない中高年2,497人へ22年間の追跡調査を行っています。
調査では被験者をホスファチジルコリンの摂取量を基準にして四分割すると、最下位のグループに対して最上位のグループは、認知症発症リスクが28%低いという結果がわかりました。
また、コリン及びホスファチジルコリンの摂取量から三分割した場合、最上位のグループは記憶力と言語能力のテストスコアが非常に高かったという結果もみられています。
そのため、卵黄に含まれる卵黄レシチン(ホスファチジルコリン)は、認知症の発症リスクを低下させたり認知機能を改善させたりする効果が期待できるでしょう。
赤ブドウ・赤ワイン
赤ブドウや赤ワインには、レスベラトロールという成分が多く含まれています。
このレスベラトロールという成分を用いた臨床実験では、アルツハイマー型認知症が発症する要因とされているアミロイドβ40が、レスベラトロールを摂取したグループでは減少したという結果が報告されています。
この臨床研究の結果から、レスベラトロールはアミロイドβを除去する効果があるとわかりました。さらに別の研究では、レスべラトロールは神経細胞への酸化ストレスと、細胞死を軽減するという結果も報告されています。
複数の研究結果から、レスベラトロールはアルツハイマー型認知症へ有効な、薬物療法の研究においても注目されている成分です。
青魚
サバやマグロ、サンマなどの青魚にはDHAやEPAを含むω3(n-3)系脂肪酸が含まれています。
軽度認知障害(MCI)の高齢者へDHA含有カプセルを1日あたり2錠、24カ月間投与した場合、認知機能に改善がみられたという研究結果もあり、研究からはDHAによってアミロイドβの沈着を抑制することで、MCIの高齢者の認知機能低下を防止している可能性があると考えられています。
またアメリカの他の研究においてω3(n-3)系脂肪酸を摂取したグループは、摂取していなかったグループに比べて脳領域の萎縮範囲が狭かったという結果もみられており、認知症進行予防にさまざまな効果が期待されている成分です。
亜麻仁(アマニ)油
アマニ油の約50%を占めているのがα-リノレン酸です。
そのアマニ油に多く含まれるα-リノレン酸は、前述のDHAやEPAを合成するための出発物質です。
α-リノレン酸を摂取することで、体内のDHAとEPAの量が増加することが報告されています。
また、α-リノレン酸は多価不飽和脂肪酸で人間の体内では作ることができず、食べ物やサプリからの摂取が必要な必須脂肪酸の一つです。
まとめ
ここまで認知機能の低下を防いだり、神経細胞の保護やアミロイドβに関与するものなど、さまざまな食材に含まれる成分を解説しました。
認知症予防として食事は注目されていますが、それは食材に含まれる原料や成分の効果が理由です。
それらの原料や成分に注目し、意識して食事に取り入れていくことで認知症予防に繋がっていくでしょう。
とはいえ食事で全ての成分を十分に補うのは実際には難しく、食材として取り入れることができないものもあります。そのため他の健康食品やサプリメントなどの摂取もおすすめです。