「認知症とはどのような病気なの?」
「認知症はどのように治療していくの?」
65歳以上で認知症を患っている方は日本に約600万人いるといわれています。2025年には約700万人、つまり65歳以上の5人に1人が認知症になる見込みです。
決して珍しくない病気ですが、どのような病気なのか、種類や治療法にはどのようなものがあるのかご存知でしょうか?今回は、おもな認知症の種類や治療について詳しく解説します。
認知症とはどのような病気なの?
認知症とは、認知機能が低下することで日常生活に支障が出ている状態のことです。人口の21%以上が高齢者である超高齢社会の日本では、認知症の患者数は年々増加している傾向にあります。
認知症は誰でもなる可能性がある病気です。自分が数年後に認知症になっているかもしれません。ご家族の方がなることも十分にあり得ます。5人家族の方であれば、確率的に誰か1人が認知症になってもおかしくない時代なのです。
認知症になるとつい数分前のできごとを記憶しておくことが難しくなり、何度も同じことを繰り返し聞くようになるでしょう。徘徊が始まると、深夜にご家族の方を探し回るようなこともあるかもしれません。話をなかなか理解してもらえず、イライラして怒ってしまうこともあります。このように、認知症は私たちの暮らしに大きく影響を与えるものなのです。
認知症で見られる症状
認知症には、大きくわけて中核症状と行動・心理症状(BPSD)の2種類があります。中核症状とは理解力や判断力の低下、行動・心理症状とは中核症状に伴って起こる症状のことです。中核症状は多くの方に表れますが、行動・心理症状は人によって見られないこともあります。
中核症状
中核症状としては、次のような症状が代表的です。
- 数分前や数十分前のことが覚えられない
- 同じことを何度も聞く
- ものを直した場所をすぐに忘れる
- 人の名前が出てこない
- 家にあるのに同じものを何個も購入する
- 今日の日付や曜日がわからないあ
- 慣れている道で迷子になる
- 簡単な手続きや操作ができなくなる
- 会話の内容を理解するのが苦手になる
- 車を運転するとよくぶつける
- 食べこぼしが増える
- 季節に合わせた服装を選べなくなる
- 料理や掃除、片付けが苦手になる
- 失禁が増える
記憶力や判断力が低下するため、少し前のことも覚えておくことができません。そのため、何度も何度も同じことを繰り返し質問してしまうのです。「さっきも答えましたよ」と言っても、本人には記憶がありません。
同じものを何個も購入したり外出先で迷子になったりするのもよくある症状です。また、季節に合った服装ができなくなるため、夏に厚着したり冬に薄着でサンダルを履いて出かけたりといった様子もよく見られます。
お手洗いへの行き方がわからなくなったり、お手洗いに行く必要性が理解できなくなったりもすることから、失禁が増える方も多いでしょう。
行動・心理症状(BPSD)
行動・心理症状では、次のようなものが見られます。
- 一人になると不安になる
- 物事に興味を示さなくなる
- 憂鬱になることが増える
- 怒りっぽくなる
- イライラしていることが増える
- 幻視が見えるようになる
- もの盗られ妄想が出る
- 外出した目的がわからなくなり、迷子になる
認知症になると、体が思うように動かなくなったり会話の内容が理解できなくなったりしてもどかしく思うことが増えます。やりたくてもできない、周りに迷惑をかけたくないと思っていても体がいうことを聞きません。
そのようななかで介護してくれる方が冷たく対応したり怒ったりしてしまうと、憂鬱になったり怒りっぽくなったりしてしまいます。自分で失くしたものも「誰かが盗ったに違いない」と思い込み、人を信頼できなくなるのもよくあることです。
認知症のおもな種類
認知症と一口で言っても、実はさまざまな種類があります。ここでは、認知症でもとくに多い4つの種類について詳しく見ていきましょう。
アルツハイマー型認知症
認知症の約70%を占めるのが、アルツハイマー型認知症です。アミロイドβというタンパク質が蓄積したり神経原線維変化が見られたりすることで発症します。なぜアミロイドβが蓄積するのかについては、まだよくわかっていません。海馬や大脳皮質などが障害を起こすことで、物忘れや記憶力障害、自発性の低下などが見られます。
レビー小体型認知症
神経細胞にレビー小体というタンパク質が蓄積することで起こる認知症です。アルツハイマー型認知症と同じく、レビー小体が蓄積する原因についてはまだわかっていません。レビー小体型認知症では、認知機能の低下のほかに体のこわばりや震えなどが見られることもあります。
前頭側頭型認知症
前頭葉と側頭葉を中心に神経細胞が変性したり脱落したりすることで起こります。発症年齢の平均は50~60代です。前頭側頭型認知症では、社会性の欠如が見られることがあります。万引きをしたり、暴力をふるったりすることがあるのです。また、同じ行動を何度も繰り返したり、感情が平坦化して鈍くなることもあります。
血管性認知症
脳梗塞や脳出血などの脳血管障害が原因となって起こる認知症です。脳のどの部分に障害が出るのかによって認知症の症状も変わります。まだら認知といって、できることとできないことの差がはっきりしていることが大きな特徴です。女性よりも男性でよく見られます。
認知症と物忘れの違いは?
認知症と物忘れの区別がつかないという方もなかにはいるのではないでしょうか。たしかに似ている部分もありますが、認知症と年齢による物忘れには大きな違いがあります。
認知症 | 物忘れ | |
忘れる範囲 | すべてを忘れる | 一部を忘れる |
学習能力 | 新しいことは覚えられない | 新しいことでも覚えられる |
物忘れの自覚 | 自覚はない | 自覚がある |
失くしものをしたときの対応 | 誰かが盗ったと思う | 自分で探して見つけようとする |
症状の進行の仕方 | 進行する | 非常にゆっくりと進行する |
たとえば認知症の方は、朝ごはんを食べても食べたことそのものを忘れてしまいます。そのため、食後であっても「朝ごはんはまだ?」と聞いてくることがあるのです。一方で物忘れは、食べたことは覚えていますが、何を食べたのかが思い出せません。
症状はどちらも進行していきますが、単なる物忘れの場合は極めてゆっくりとしか進行しません。
軽度認知障害(MCI)と認知症の関係
軽度認知障害とは、認知症になる一歩手前の状態のことです。認知機能の低下が見られるものの認知症ほどまではいきません。本人も物忘れが多いことを自覚しています。また、物忘れによる日常生活への影響はそこまでありません。
ただし、軽度認知障害になると、年間で10~15%の方が認知症に移行するといわれています。軽度認知障害の段階で適切な介入ができれば、認知症への移行を食い止めることが可能です。
認知症は治るの?
自分や家族の方が認知症と診断された場合、気になるのが「治るかどうか」という点ではないでしょうか。誰にも迷惑をかけたくない、今まで通りの暮らしをしたいと考える方は多いはずです。
根本的な治療はできない
残念ながら、今の医療で認知症を根本的に改善することはできません。治療方法がある認知症もありますが、どれも症状の進行を遅らせるのみで認知症を治せるものではないのです。ただし、認知症になったからといって人生が終わるわけではありません。認知症を抱えながら今まで通り働いている方もいます。
非薬物療法が有効なこともある
非薬物療法とは、薬を使わずに認知症を治療していくものです。リハビリを行って転倒リスクを軽減したり、音楽療法やレクレーション療法などを行って脳を活性化したりする方法が行なわれます。非薬物療法を通して認知症の方の精神状況を安定させることで、身体機能や認知機能を維持することが可能です。
認知症は予防と早期発見が重要
認知症は一度発症すると一生涯にわたって付き合っていくことになります。今のところ、認知症を完治させる方法はありません。そのため、まずは認知症にならないように予防することが大切です。
人と積極的に関わりをもち、食事バランスをよくしたり適度な運動をしたりすることで予防ができます。また、軽度認知障害の時点で「何かおかしいかも?」と気付き対策を始めることも重要です。認知症の前段階で正しい治療を行えば、認知症への移行を食い止められます。
認知症に関するQ&A
最後に、認知症に関する質問にお答えします。
認知症の原因はなんですか?
アミロイドβやレビー小体などのタンパク質の蓄積、脳の機能障害など原因はさまざまです。認知症の場合は、原因に応じて適切な治療が行われます。
認知機能低下と認知症の違いはなんですか?
認知機能の低下は年齢によって起こる物忘れのことです。認知症とは違い、物忘れの自覚があります。一方で認知症の場合は、物忘れの自覚がありません。年齢による物忘れが認知機能低下、病的な物忘れが認知症です。
痴呆症と認知症の違いはなんですか?
痴呆症と認知症は同じものを指しています。昔は認知症のことを痴呆症と呼んでいましたが、差別的な意味合いが含まれているため認知症へと呼び方が変わったのです。
認知症になると顔つきが変わるって本当ですか?
本当です。認知症になると感情や周囲への反応がにぶくなるため、それが表情として表れます。眼瞼が下がり、表情が乏しくなることが多いでしょう。
認知症の初期症状にはどのようなものがありますか?
初期症状としては、同じことを何度も話したり聞いたりする、ものをよく失くすなどが見られます。
まとめ
認知症とは、日常生活に支障が出るほど認知機能が低下した状態のことです。アルツハイマー型認知症やレビー小体認知症、 前頭側頭型認知症や血管性認知症などの種類があります。もっとも患者数が多いのはアルツハイマー型認知症です。
根本的な治療はできないため、薬を使って症状の進行を止めたり非薬物療法によって精神状況を安定させる方法が取られます。早期発見ができれば症状の進行を抑えることができるので、早めに治療を開始することが大切です。