
大豆は、「畑の肉」と言われるほど、たんぱく質を豊富に含んでいます。エネルギー源となる脂質や、有害な活性酸素を取り除くビタミン類も多く含まれており、栄養価の高い食材です。
現在では、認知症の予防にもっとも注目されている食材の一つです。
大豆に含まれる栄養成分
大豆レシチン
レシチンは、脳や神経細胞に多く存在しています。細胞膜を構成するための重要な成分であり、脳機能を改善する成分として知られています。
レシチンは脂質の一種であり、広義ではホスファチジルセリンやホスファチジルコリンを含むリン脂質の混合物として、狭義ではホスファチジルコリンの別称として知られています。
ホスファチジルセリンは、脳機能を改善し、高める効果があります。さらに、認知症の予防や、認知症において最も患者数の多いアルツハイマー病の症状改善にも効果があることが報告されています。現在、ホスファチジルセリンは、脳機能を改善するブレインフード(脳の食べ物)として世界から注目されています。
大豆サポニン
大豆の苦み成分であるサポニンには、強い抗酸化作用があります。血中の中性脂肪やコレステロールといった脂質は、活性酸素によって酸化されると過酸化脂質となって血管内に蓄積され、動脈硬化や脳梗塞の原因になるといわれています。大豆サポニンは、抗酸化作用によって活性酸素を除去し、過酸化脂質の生成を抑えます。他にも、抗がん・抗腫瘍作用を持つことが報告されています。
大豆の健康効果
脳機能の改善、アルツハイマー病を始めとする認知症の予防と改善
大豆の希少成分であるホスファチジルセリンは、脳機能の改善、認知症の予防、特にアルツハイマー病の症状を改善する効果があることが報告されています。
ホスファチジルセリンは、日本テレビの「世界一受けたい授業」で「脳を活性化させるブレインフーズ(脳の食べ物)」と紹介されたことでも話題になりました。
脳の神経細胞の細胞膜は、細胞内へ酸素や栄養素を取り込み、細胞外へ老廃物や有害物質を排出しています。神経細胞が健康な状態で生存するためには、このように神経細胞の内外で物質を活発に移動させる必要があります。そのためには、神経細胞膜は柔らかく流動性に富んでいなくてはなりません。
ところが、神経細胞膜は加齢とともに硬化するので、年齢とともに細胞の内外で物質の移動が
停滞するようになります。つまり、細胞内に必要な栄養素が届きにくくなり、有害物質が蓄積されやすくなります。また、アルツハイマー病は、脳の活動によって生じる老廃物のアミロイドβ(ベータ)の蓄積が原因とされています。加齢によって脳の神経細胞膜が硬化することで、アミロイドβがうまく排出されず、蓄積が加速するのです。
ホスファチジルセリンは脳の神経細胞に多く含まれ、神経細胞膜を柔らかく保つはたらきがあります。細胞膜が柔らかくなることで、脳に十分に栄養や酸素が供給され、老廃物のアミロイドβが速やかに排出されるようになります。その結果、若い頃のように健康な脳に保たれ、認知症の予防や低下した脳機能の改善につながるのです。
コレステロール値の低下、血流の改善、動脈硬化のリスクの低下
大豆に含まれるサポニンには強い抗酸化作用によって、脂質の酸化を抑制します。
血液中の脂質であるコレステロールは、活性酸素(※1)により酸化されると、LDL(悪玉)コレステロールとして血管内に蓄積します。悪玉コレステロールが蓄積した部分では血管が詰まるので、血流が悪くなって様々な悪影響をもたらします。さらに、悪玉コレステロールが血管を傷つけることで血管が硬化し、動脈硬化の原因となります。
サポニンは、強い抗酸化作用によって脂質の酸化を防ぎ、悪玉コレステロール値の低下、血流の改善、血栓と動脈硬化の予防に役立ちます。
※1:活性酸素とは、呼吸によって体内に取り込まれた酸素の一部が、通常よりも活性化された状態になることです。活性酸素は、体内の細胞、タンパク質やDNAといった様々な分子を攻撃して傷つけます。一方で、体内に侵入した病原菌に対して殺菌作用を示すことから、体を防御する機能性もあります。したがって、体内で発生した活性酸素のうち、過剰なものを効率よく分解できることが重要となります。
大豆の栄養素を効率的に摂取するには
大豆の栄養素を効率的に摂取するには、なるべくそのまま食べることが重要です。加熱調理などを行うと、栄養が損なわれてしまいます。
一方で、脳機能の改善に有効なホスファチジルセリンは希少成分であるため、そのまま食べても充分に補うことは難しいといわれています。したがって、こうした希少な栄養素は、サプリメントで効率よく摂取することが重要です。
参考文献
宮崎 洋祐
ホスファチジルセリン(PS)の概要とその機能
生物工学, 95 (2017)
酒井 正士, 片岡 豪人, 工藤 聰
ホスファチジルセリンと脳機能
オ レオサイエンス, 2 (2002)
堀江 秀典, 生田 信一郎
年とともに硬くなる神経細胞膜
生物物理, 29 (1989)
Milgate J, Roberts DCK
The nutritional & biological significance of saponins
Nutrition Research, 15 (1995)
名取 貴光
新・野菜の便利帳 健康編
高橋書店(2016)